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『人妻の危機』
(ジョン・スタージェス,1953)

 ジョン・スタージェスの70分にも満たない小品の犯罪映画。やっぱりこの頃
のスタージェスはすこぶる面白い。邦題の人妻はバーバラ・スタンウィック。彼
女が全き主人公で、そのモノローグによりプロットは進行する。何が良いって、
ジョン・スタージェスにしては珍しく、スタンウィックに対するエロティックな
視線がちゃんと描かれているところがいい。

 開巻はハイウェイのショット。これはスタンウィックの家族旅行の物語。夫の
バリー・サリヴァンが運転し、息子ボビー−前年のダグラス・サーク『突然の花
婿』でも大活躍していたリー・アーカーが後部席にいる。目的地の浜辺(プライ
ベートビーチのような海岸)へ到着するまでも、警察の検問などがあり不穏な空
気を醸成するが、浜を高台(崖上)から一望するシーンで挿入される俯瞰ショッ
トがとても怖い。大きな朽ちかけた桟橋があるのだ。そして予期していた通り、
事件は桟橋で発生する。床板が割れ、父親のサリヴァンが波打ち際に落下、さら
に太い支柱がサリヴァンの脚の上に倒れて、彼は身動きできなくなってしまう。

 こゝから、潮が満ちるに従ってサリヴァンに波が襲いかかるというタイムリミ
ット・サスペンスが始動するワケだが、スタンウィックが不慣れな自動車の運転
をし、ロープを探し求める(もしくは救助者を捜す)プロットとなり、本作の第
二の、いや真のスリルが発動する。これが、脱獄囚のラルフ・ミーカーだ。

 さて、ミーカーと云えば何と云っても『キッスで殺せ!』だが、他の代表作っ
て、フラー『赤い矢』やキューブリック『突撃』ぐらいでしょうか。しかし、本
作の脱獄囚役が『キッスで殺せ!』の次ぐらいのハマり役だろう。荒っぽい運転
と荒々しいキス。スタンウィックは、夫を助ける条件として、ミーカーに自分の
身体を提供したのか。これは暗転であやふやにされているが、映画文法としては
明白だろう。しかし、ボビー少年に「カッコいい人だったね」と云わせる、そし
て観客に、それはキツイ皮肉ではあるが、半分その通りとも思わせるスタージェ
スの演出がとても良く出来ていると思う。