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『聖アントワーヌの誘惑』
(ジョルジュ・メリエス,1898)

 約1分(70秒ぐらい)の短編。洞窟のような場所の画面左に、ほゞ等身大の
キリストの磔刑像の十字架があり、その右にフードのあるローブを着た老人が座
っている。十字架の台座には、しゃれこうべ(ドクロ)が一つ置かれていて、な
んとも異様な光景だ。老人は聖書(と思われる本)を読み出すが、唐突に薄い白
い衣をまとった女性が出現し消えたり、今度は2人の女性が老人を挟んで現れて、
からかった後また消える。老人はドクロを取り上げ、なにかに感謝するようにキ
スをするが、女性が次々に3人再登場し、彼の周りを輪になって踊る。あげく、
磔刑のキリストが女性に変化するが、最後は画面右の中空に翼の付いた天使が現
れ、十字架に磔(はりつけ)にされた女性はキリストに戻る。

 見終わって調べると、この題材はフローベールが1874年に小説として発表
しているらしいし、もっと昔から画題としては多数採り上げられているとのこと
だ。私もサルバドール・ダリによるシュールな油絵だけは見た記憶があった(ダ
リの絵は1940年代に描かれたものらしいが)。この辺りの周辺情報をこゝで
記載するのは私の趣旨と異なるので、詳しく知りたい方は自分で調べてもらえば
いいとして、映画技法という観点での本作の面白みは私は希薄なものだと感じら
れた。ありきたりなストップトリックを連打しているだけで、ポイントになるア
イデアに乏しいと。もっとも、肉欲の誘惑に負けなかったアントワーヌと天使の
救いが帰結とは云え、3人の女性の振る舞い(サタンの誘惑)の描き方は、なん
とも不敬な(ちょっと侮辱し過ぎな)感覚があり、このアナーキーさは面白いと
思った。

#聖アントワーヌはメリエス本人。3人の女性の1人はジャンヌ・ダルシー。