舞台は天文台。画面左下に机についた天文学者がおり、画面中央奥には大きな
半円アーチ窓、その手前にこれまた大きな望遠鏡と地球儀(天球儀?)が描かれ
た書割りがある。この後、悪魔の使いみたいな小男と月の女神のような女性が突
然出現し消え去った後、背景の書割りや小道具がどんどん変化する様子を、主に
ストップトリック(先の小男と女神の出現・退場もこの技法。カメラを停止させ、
その間に被写体を変化させてカメラを再スタートする撮影)と多重露光を駆使し
ながら見せる。
まずは、天文学者が黒板に書いた天体(円形の絵)が動き出したり、絵が変化
するといった画面細部にまでアイデアを盛り込んだ演出に驚かされるが、何と云
ってもインパクト大なのは、画面中央奥に、どでかい月、しかも気味の悪い顔が
描かれた満月が、ドーンと登場してからだろう。特にこの満月の口の部分が活躍
する。登場すぐに望遠鏡を飲み込んでしまったかと思うと、口の中から、2人の
子供が飛び出してきたりする。その後、満月は後方に退いて、三日月になり、今
度はその弧(内側のライン)にピチピチの衣装を着た女性が横たわっている。こ
の女性に翻弄された天文学者は、再び現れた満月の口の中に頭から突っ込まれて
いて、結局食べられてしまう。
1902年の『月世界旅行』で描かれた、ロケットが突き刺さる月のデザイン
とはずいぶん異なるが、本作は『月世界旅行』の原点ということができるだろう。
月を悪夢の象徴として極めてブラックな感覚で描くアイデアが満載で、あれよあ
れよという間に変転する、一瀉千里に突き進むスピード感が良いと思う。
#例によって天文学者はメリエス本人。月の女神はジャンヌ・ダルシー。
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