これは良く出来てる。舌を巻くぐらい上手い。それは沢山の細部でそう感じさ
せるが、何と云ってもファーストショット及び中盤、そして終盤にバランス良く
配置されている印象的な長回しシーン演出をあげるべきだろう。
まずはファーストショット。夜走る車を正面から(ボンネットの上に置いたカ
メラから)フロントガラス越しに画面右(左ハンドル)に運転者の男性、左に助
手席の女性を捉え続ける長回し。後部窓の向こうに野犬が駈けていくのを小さく、
でもはっきりと見せる。そう本作は「野犬の映画」でもある。やゝあって唐突に
後部座席から幼い娘が出現する。この見せ方にも驚きがある。こゝで「小さなア
クシデント」が起こる。
中盤の長回しは、低い枯れ木が一本だけある(「ゴドーを待ちながら」みたい
という科白がある)砂漠が再度登場する場面だ。拉致した男性(義足の男)をど
うするのか主人公のワヒド、女性写真家のシヴァ、シヴァの顧客で新婦−ゴリと
新郎−アリ、そしてすぐにキレるハミドの5人で話し合うのをカットを割らず、
引いた画角で捉え続ける。
終盤の長回しは2つある。1つは、義足の男を人けのない高台の木に括りつけ
て尋問するシーン。男は黒い目隠しをされている。自動車のテールランプだろう
か赤い照明の効果。こゝで、最も穏健派だった写真家シヴァが、急にワヒドに代
わって糾問し始めるという展開は、予想の範囲ではあるが、やはり胸を打つ。も
う1つはラストショットだ。詳述するのは自粛するが、ある登場人物の後ろ姿が
ワンカットでずっと捉え続けられるとだけ記しておこう。私はこの演出も含めて、
本作は「目隠しの映画」と云いたくなる。
さて、もう一段落だけ、良く出来た細部の例をあげておきたい。例えば、ワヒ
ドの店に附設している鳩舎の電灯がいきなり灯る演出。義足の男を追跡し自宅を
腹ばいになって見るワヒドから、翌朝、自動車の中にいるワヒドに繋ぐ編集。こ
ういった時間の飛ばし方だと、男をショベルで殴った後すぐに砂漠のロングショ
ットで穴を掘るワヒドのシーンをカッティングするセンスなんかもそうだ。ある
いは、すぐにキレるハミドの登場シーンが、道路の向こうの方で、いきなりシヴ
ァを突き飛ばしている姿で映るなんて見せ方も上手いし、これはスクリプトの上
手さになるが、義足の男の娘が「お父さん以外には絶対電話しちゃいけない」と
躾けられていることが分かる科白も実に上手い。もっとも、我ながらヒネた観客
だと思うが、この病院のシーンでのワヒドの行いには感動もしたけれど、同時に
少々作劇クサさも感じた。
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