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『狼と豚と人間』
(深作欣二,1964)

 これは凄まじくエネルギーに溢れた作品だ。深作の戦略的に「荒削りに見せる
作風」をほゞ確立した作品に思える。例えばそれは、北大路欣也、岡崎二朗、石
橋蓮司、志麻ひろ子(後に島ひろ子)らが辰巳水門の堤防を歩くロングショット
から始まるシーケンスだ。北大路が骨箱(母の遺骨)を海に放り投げ、唐突に唄
い踊る『ウエストサイド物語』風のミュージカルシーンになるのだが、これに続
く放棄地のような場所で野犬を虐める場面や、アジト(小屋)での狂乱シーンの
荒々しさはどうだ。

 こゝに、北大路の兄・次男−高倉健と相棒の江原真二郎のところへ長兄の三國
連太郎がやって来て対峙する場面−こゝは静的だが、しかし、めっぽう迫力のあ
る仰角ツーショットがある−を挟んだ後、再び北大路たちのアジトに戻ってから
の会話シーンの熱量も凄い。科白のディレクションも熱いが、特に、屋内望遠シ
ョットが強い画面を作りだすことに奏功している。

 また、井の頭線渋谷駅構内での、現金・麻薬合わせて4千万円が入った鞄の強
奪から逃走へ至る場面の見せ方も良く出来ている。八名信夫が鞄を持って歩く。
北大路らへの素早いズームインと唐突に始まる喧嘩騒ぎ。菅沼正と室田日出男が
やって来るのを高倉と江原が拳銃で牽制し、スキをついて北大路が鞄を持って逃
走する。この沢山のモブの中の強奪シーンを手持ちのダッチアングル連打でスピ
ーディに繋いで見せるカメラワークはもうほとんど完成形の演出に思える。

 後半になって、予期せぬカタチで主要人物が皆アジトに集まる状況になり、こ
れって『白昼の無頼漢』や『ギャング同盟』におけるゴーストタウンでの籠城戦
パターンを思い出させる。しかし、こゝで描かれる裏切り合いと、仲間としての
結束の強さ、これら両面での複雑な感情の描き方もとても見応えのあるものだろ
う。あるいは、高倉と江原から、北大路や岡崎、石橋に加えられる拷問描写の凄
惨さも書いておくべきだと思う。

 そして、このアジトに高倉の情婦−中原早苗(本作の翌年に深作欣二と結婚す
る)がやって来て、終始、超然とした態度を崩さない、という演出も面白い。こ
のデンで云うと、序盤すぐに出てくる高倉と中原のベッドシーンを含む情事の場
面の、ゆったりとした時間の使い方だとか、三國が仕える社長(親分)−沢彰謙
の邸宅前(玄関前の車のところに室田や八名がいるショット)から、クレーンで
上昇して塀の上から庭のプール横のテーブルについている幹部たちを映し、ズー
ムインする流麗なカメラワークなど、手持ちやダッチアングルの荒々しい演出と
の対比も効いて、この辺りも、よく考えられた演出であり、荒々しく見せた部分
が戦略的なものなのだと思わせる。

 尚、本作以降、高倉健が深作作品で主演を務めることはなく、出演したのも特
別出演の『カミカゼ野郎 真昼の決斗』たった一本だけである、というのは、ウ
ワサ通り、お互いに馬が合わなかったのだろうとは推察するが、本作の画面を見
る限り、高倉もノリノリでピカレスクを造型しているように感じられた。

#備忘でその他の配役などを記述します。
・社長(親分)−沢彰といつも一緒にいる幹部に春日俊二。
・三國をつけている沢彰の子分は三重街恒二。
・三國を見張る男の一人は日尾孝司。
・石橋を拷問して吐かせた鞄の所在−高倉が行くジャズ喫茶は渋谷百軒店にある。