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『キリストの生涯』
(アリス・ギイ,1906)

 これは凄い。アリス・ギイを最初期(1986年)から年代順に見てきたが、
こゝまで私が見たのは全て数分の短編、しかも、一場面だけで構成されているモ
ノばかりだったのに(例外的に『第一級の産婆』のみ2場面)、いきなり30分
を超える大作が出た。これはキリストの誕生からその死と復活までを、25の章
立てで描いた作品だ。つまり25のシーン(シーケンス)があり、その導入部に
は綺麗な絵のついたタイトルカードが出る。ちょっと例示すると「三賢者」「サ
マリタン」「ヤイロの娘への奇蹟」「パームサンデー」「最後の晩餐」「夜警」、
「ユダの裏切り」「ポンテオ・ピラト」「責め苦」「エッケ・ホモ」「聖ヴェロ
ニカ」「ゴルゴダ」「復活」などなど。

 各シーンはほとんどが固定のロングショットで長回し(ワンカット)。こう書
くと、数分の短編の寄せ集めみたいじゃないかと勘違いされそうだが、まずは各
シーンの美術装置が、これまでのアリス・ギイ作品のクォリティと全然異なって
いる。いやそれ以上に、多くのシーン(ショット)で、画面奥から手前への人物
の動きが描かれていて、しかも予想以上に沢山の人が映っている。例えば「三賢
者」のシーンでは赤ん坊のイエスの周りを20人ぐらいの人が囲んでいたりする
し、ヤイロの娘が息を吹き返す場面やマグダレーナがイエスの足を洗うシーンで
も10人以上の人が映っている。極めつけはゴルゴダの丘のショットだろう、多
分100人以上のモブが動員されていて、これをパンして見せる。

 また、上でほとんどが固定のロングショットかつ長回しと書いたが(例外的に
パンがあるのも書いた)、次の2つのシーンではカットが割られており、これも
特筆すべきと思う。一つは、聖ヴェロニカの伝説−ゴルゴタの丘へ向かうイエス
を憐れみ、顔を拭うためにヴェールを差し出したヴェロニカ。イエスの汗と血が
拭き取られたそのヴェールには、彼の顔が写し取られていたという伝説−の章の
中で、回廊のような場所のロングショットから、唐突に女性(ヴェロニカ)が持
つ、イエスの顔がプリントされている布に、ポン寄りのように寄るカッティング
がある。もう一つはラストの「復活」の章だ。巨岩の穴の中に置かれた棺のショ
ットがあり、ディゾルブで天使たちが出現する。天使が棺の蓋を開けると、二重
露光でイエスが中空に現れ、上昇し始める。こゝでカットを割って、巨岩の外観
(つまり墓の外)のショットが繋がれる。さらに再び墓の中のショットになって
終わるのだ。これら2つのシーンのカッティングであえて優劣をつけるなら、私
はヴェロニカへのポン寄りのような繋ぎを取る。これは私が見たアリス・ギイ作
品の中で、初めての、同一空間/同一時間軸上のカット割りだ。