戻る

『8月の約束』
(石井克人,1995)

 ファーストショットは、ビルの狭間−路地の向こうを撮った(一台の商用車と
荷物を運ぶ人なんかが小さく映っている)画面で、「マリファナの地図」につい
て話す電話の声がオフで(画面外から)入る。工事現場のようなノイズ。次のカ
ットは、一両車両の列車が右から左へ動く仰角ショット。田舎の駅のホームに立
っている3人の若い女性が現れる。本作は、彼女ら大学生3人−水野、望月、森
田による、夏の一日の冒険譚だ。

 3人の内、誰か一人を主人公に選ぶとしたら、水野、ということになるだろう。
プロットが進み始めると、徐々にではあるが、水野が「地図」を男友達(黒川)
から手に入れた(盗んだ)ということや、3人はその地図に記されている場所へ
向かっている、と分かってくる。しかし、はっきり云ってこの地図は、典型的な
マクガフィンだ。3人は山道で通りかかった自動車に乗せてもらうのだが、運転
しているのがダンカン−岡井で、彼がもう一人の主人公とも云うべき役割りを担
い出す。結局プロットは、地図ともマリファナとも関係のない、水野と岡井のあ
る約束に収斂する。

 石井克人の『鮫肌男と桃尻女』の4年前に作られた映画監督デビュー作。なか
なか面白く見た。ファーストショットの意味不明さ、オフの効果音−ウグイス、
キジバト、トビといった鳥の鳴き声の使い方、3人の内の特に望月の鬱陶しいキ
ャラ造型(キャノンの8ミリフィルムカメラを持っている)、大衆食堂での、店
主やイノシシの剥製との切り返し、ダンカン登場場面のもったいぶった見せ方、
2人のバイカーの扱いなど(あげ出すとキリがないが)、予想通りちょっとアザ
トイ演出が横溢している。でも、アザトイという言葉には「ある目的に対して戦
略的であり、その戦略が見透かされていることも分かっていてやるお茶目さ」と
いうニュアンスが含まれているだろう。これを体現していると感じられるのだ。
あと、全体的に田舎の自然(緑)を基調とした画面は綺麗だし、8ミリフィルム
で撮られた映像(ほとんどが望遠画角のアップ)の躍動感も悪くない。

#冒頭の無人駅は、JR磐越東線の江田駅(福島県いわき市)のよう。景勝地の
 案内板(夏井川渓谷、背戸峨廊という文字が見える)から調べました。