基調はハイキーのモノクロ。ローキーで薬を嚥下するショットは何度繰り返さ
れただろう。他にも、目覚めると鼻血。ドアの覗き穴(ドアスコープあるいはピ
ープホール)のミタメ。ドアにはチェーンロックがいくつも(5つぐらい)付い
ている。階段で東洋系の女児が計算問題を出してくる。街に出る。中華街。木の
枝(プラタナスか?)を見る。
コンピュータの画面。基板(チップ)の入ったスケルトンケースが高い所に吊
にられている。これってハッタリっぽい画面造型だ。モニターは懐かしいツート
ンのキャラクターディスプレイ(CRT)。電話がかかってくるが、すぐに切る。
隣人の女性がサモサを持って来る。
カフェ。コーヒー。レニーと名乗る男はユダヤ人。「ジューだね」と話しかけ
てくる。震える手。洗面所。耐え難い頭痛。鉄砲注射(自動噴射式注射機)。ド
アが揺れて見える。ドアノブが回る。ドアが外れる。本作はドアの映画でもある。
あるいは電話の音の映画。囲碁の映画。地下鉄の映画。列車の中で「瞳は君ゆえ
に(I Only Have Eyes For You)」を唄う男性。
レニーは「ヘブライ語は数字だ」と云う。螺旋。黄金律と黄金螺旋。コーヒー
のクリームやタバコの煙も螺旋。隣室の喘ぎ声。壁にズームイン。ちくしょう!
コンピュータの停止。スケルトンケースの基板にバグ(蟻)。ベトベトしている。
本作は蟻(バグ)の映画でもある。向かいのホームに自分がいる。手から血が滴
る。血液の映画。血液をたどると、脳味噌がある。脳に蟻。ペンでつつくと耐え
難い痛みが走る。脳は階段に置かれている。こゝのカット割りには驚きがある。
海辺。海水で顔を洗う。顔を洗う映画。ガイガーカウンターで砂浜を調査する
男性がいる。巻貝も螺旋。メガチップが届く。怖くてリターンキーを押すことが
できない。360度パン。螺旋と回転運動。洗面所の鏡を殴って割る。側頭部に
鉄砲注射を打つ。ぶっ倒れた次のカットで隣人の女性。大家もいて「勝手に鍵を
付けて」と叱られる。
この後、地下鉄のホームでカメラを向けてくる男を追う場面になって、いきな
り手持ちのシェイキーなブレ画面になる。さらにメガチップを提供した組織から
追われ、唐突な暴力描写が連打される。洗面所のシンクで脳をメチャクチャにす
るイメージ。シナゴーグのユダヤ人たち。神の真の名を知る者とは。はっきり云
って、全くのハッタリ映画だと思う。しかし、見事に決まった演出・撮影だ。今
見るとありきたりな感覚も持つが、この手の神経症的な情緒を定着した画面造型
としてはお手本のようだと思う。
|