本作も力のある作品だ。この画面のパワーは侮れないと思う。緩みのない演出
−画面造型の力に興奮し続けながら見た。ファーストショットはアパートの外壁
というか、その窓を外側から撮ったロングショット。会話が聞こえる。カイとい
う名前。次に自動車の中。運転する西島秀俊。助手席にグイ・ルンメイ。後部座
席に幼児のカイがいる。後のシーンで4歳という科白がある。ルンメイとカイは
父母の店(コンビニ)で強盗に会う。大学で講義する西島。内容は廃墟について。
夜、雨の中、店に車で来る西島。本作は、廃墟の映画。あるいは夜の雨の場面の
多い映画でもあり、西島が乗る自動車−スバル・レガシーの映画だ。このカラー
スプレーで落書きされた車が、プーリーの異音をずっと鳴らしているという設定
も、私はすこぶる面白いと思う。成瀬の『稲妻』で小沢栄が乗っている原付バイ
クの音の使い方を想起してしまった。
そして人形劇だ。最初にルンメイが自室で小さな(と云っても1メートル弱ぐ
らいの)人形と芝居する場面を見た時点から瞠目する。人形の表情に震撼とさせ
られたのだ。さらに、ルンメイが中に入って操作する大きな(2メートルぐらい
の)被り物のような人形のスペクタキュラーなこと。この趣向がなければ本作の
魅力は半減しただろう。また、西島が廃倉庫のような建物に、塀を乗り越えて入
っていくと、そこは放置された劇場で、真っ暗な舞台上に、まるで怪物のような
衣装を着た演者が見える。このような西島の幻影の造型も、メインプロットとの
連関は希薄だが、私は本作の魅力だと思う。路上を歩く大きな人形(ルンメイが
中に入って操作していることも画面で示される)のイメージショットしかりだ。
例えば、グロッサリーストアで、カイがいなくなり、捜すルンメイの場面では、
もっとサスペンスを盛り上げることができるだろうと思ったし、こゝで窓の外か
ら母子を見つめる男−ドニ―の描き方も食い足りなさを感じてしまう。あるいは
終盤の西島の振る舞いには首肯し難い独善性−自分勝手さも感じられるが、だか
らと云って、これらの点が、本作の興奮を大きく損なう要因ではないというのが
私の感覚だ。
大学構内でカイの姿が見えなくなり、必死で捜す西島と、人形劇団のリハーサ
ル−ルンメイがディレクションするシーンをクロスカッティングで繋ぐ演出や、
人形劇の本番公演後、バーカウンターの西島の横にルンメイがやって来て、西島
は彼女を振り切って外に出、ルンメイが路上ですがる場面なんかも良い画面造型
だと思う。そして、終盤のカークラッシュにも度肝を抜かれるし、いや何と云っ
ても、西島とルンメイの2人を全く拮抗するレベルで立たせている演出に満足感
を得る。特に、このルンメイの複雑さの造型には、真利子哲也の変貌を感じる。
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