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『Artful Kate』
(トーマス・H・インス,1911)

 本作のメアリー・ピックフォードとオーウェン・ムーアは恋人同士(実生活で
は夫婦)。オープニングは、ピックフォードの部屋にムーアが訪問する場面だ。
ムーアは海軍士官で近く出帆する予定。懐中時計にピックフォードの写真を入れ
て、君のことは片時も忘れないよ、みたいなやりとりをし、キスをする。このシ
ーンでは、ムーアが持つ懐中時計のアップショットの挿入がある。

 ほどなくして、ピックフォードの元にはキューバの叔父さんから手紙が届き、
パーティに招待される。キューバには、ムーアが乗る艦船が寄港予定のようだ。
先回りしてキューバに渡ったピックフォードは、現地でムーアを待ち受けるのだ
が、ちょっとした悪戯ごころで、現地娘に変装し、ムーアを誘惑しようとする。
ところが、思いのほか、ムーアがその気になってしまう、といったプロット展開
だ。

 本作も上に書いた懐中時計のショットや手紙の文面ショットを除くと、人物を
ニーショットかフルショット以上に引いた構図ばかりの画面造型だ。ただし、特
にキューバの場面が顕著だが、人物を左右いずれか手前にフルショットレベルで
置いて、画面中央奥にも小さく人や物を配置するといった奥行きを意識させる画
面が多々出て来る。この構図による見応えは感じられる映画になっている。

 しかし、例えば、公園のベンチが画面左手前にあり、画面中央奥に道があると
いった構図のショットで、ムーアとピックフォード(現地娘に成りすましている)
が画面奥から道を歩いて来る場面では、ピックフォードがムーアの懐中時計から、
自分の写真を取り除くといった演出が行われていると思われるのだが、寄りのシ
ョットがないし、インタータイトル(挿入字幕)での説明もないので、2人が何
をもめているのか分からないのだ。こういった部分には、映画文法の未成熟さを
感じざるを得ない。さらに米国に帰郷したムーアがピックフォードからなじられ
る場面でも、懐中時計の中の写真の有無が明確に映されないというのは、今見る
ともどかしい。