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『The Thief’s Wife』
(アラン・ドワン,1912)

 現在見られる初期ドワン監督作の中でも指折りの作品だろう。開巻から驚く。
捜索者ショットなのだ(そんな言葉があるかどうかは定かではない)。屋内に置
いたカメラから、開かれたドアの向こうの屋外を撮ったショット。50メートル
ぐらい離れた場所に木が立っている。このショットの画面手前、ドアのところに
女性の後ろ姿(ほゞシルエット)がフレームインし、女性は屋外を見る。『捜索
者』のオープニング、ドロシー・ジョーダンの後ろ姿は、これが元だったのか!
このショット以外にも、屋内から窓の向こうに同じ木が見える、矢張り、黒枠の
中に窓の矩形だけが露光している縦構図ショットも出て来る。

 このファースカットの女性−ポーリン・ブッシュがタイトルロールだ。主要登
場人物は3人だけ。あとの2人は、女性の夫である盗人と、彼を追ってきた保安
官たちの一人−この頃のドワン映画のヒーロー役−J・ウォーレン・ケリガン。
その他は追跡隊のモブの男たち。家屋の中の盗人と追跡隊の銃撃戦があり、盗人
は逃亡するが、盗人の妻−ブッシュは、負傷した保安官−ケリガンを手当てする。
これを、逃げる盗人と追跡隊、及び、怪我をしたケリガンとブッシュの2つの場
面でクロスカッティングして見せる。

 この構成の中で、特筆すべき超絶ショットがある。それは、画面手前に家屋の
前にいるケリガンとブッシュを映し、彼らの後景のずっと遠くの方に山が見えて
いるショットなのだが、その山腹の道に、盗人と追跡隊の馬群が小さく見えると
いうものだ。これは驚愕レベルの深度のショットだろう。審美的な意味でも凄い
感覚だが、合成を使わずにこれを実現しているということにも驚かされる。とい
うように、本作の全編に亘る奥行への志向や開巻ショットを鑑みるに、矢張り、
ドワンなくして、フォードはなかったのだということを痛感する。