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『JOIKA 美と狂気のバレリーナ』
(ジェームズ・ネイピア・ロバートソン,2023)

 これは主人公ジョイカ−タリア・ライダーの顔の映画。バレエ映画でそれって
どう、と云うべきかも知れない。もちろん、バレエダンスの映画であり、足の映
画という側面も多々あるけれど、何にも増して、全編タリア・ライダーの顔に魅
了され、圧倒され続ける映画だと私には感じられた。そのほとんどが不安や緊張
にさいなまれた、あるいは足の苦痛をこらえた、あるいは激しく自己主張する、
強く険しい表情ばかりなのだが、しかし、なんて美しいのだろうと思い続けた。
ただし、一つだけ良くなかった場面をあげておくと、中盤で急にモスクワを訪れ
た父母に会う場面での(ワザとした)厚化粧はいただけなかった。これは実話な
のかも知れないが、プロットとしてもイマイチだし、その画面は甚だ興覚めだっ
た。ところが、この少し後の、芸術監督とつるんでいるパトロン候補と会食する
場面の彼女の美しさは全編で一番と云ってよく、ちゃんとお釣りが出るぐらい取
り戻したと思う。ライダーは『17歳の瞳に映る世界』の脇役時点で将来が楽し
みと感じた女優なので、最近、主演作が続いており、その活躍が嬉しい。

 さて、日常生活や、練習場面はほとんど手持ち(あるいはスタビライザーみた
いなもの)で撮られていて、主人公ジョイカ−ライダーの表情も相まって、バレ
エシーンのみならず全編が高い緊張感を維持している。特に冒頭、アカデミー初
日のシーンは迫力満点だ。これは良いオープニングだと思う。それには音の使い
方も大きく貢献しているだろう。練習生がトゥシューズを床にバンバン叩きつけ
る音、ドアが開いて教師ヴォルコワ−ダイアン・クルーガーが登場し、いきなり
レッスンが始まる演出、クルーガーの畳みかける掛け声の効果も大きいだろう。

 また、高い緊張を保った中においても、男子練習生の一人ニコライ−オレグ・
イヴェンコとの(前半の)場面は、緩急の緩になっている。特に、ナタリア・オ
シポワの「白鳥」を見た帰り道でのキスシーンの演出はとても良いと思った(だ
から、詳述したいけど避けます)。あと、時系列は前後するが、ジョイカとニコ
ライが屋上で会話するシーンの2人の切り返しで、軸線(イマジナリーライン)
を無視した繋ぎになるのは気になった。しかし、後半になって、ジョイカがヴォ
ルコワ−クルーガーの居所を訪ねた場面でも、最初は軸線無視の切り返しだが、
クルーガーを部屋の中で移動させて、正常な切り返しに転換していったのだ。こ
れって多分ワザとやっているのだろう。

 尚、英米におけるタイトルは、定冠詞付きの「アメリカ人」だそうだ。我が国
や共同製作国でもあるニュージーランドなどでは「ジョイカ」がタイトルであり、
誰がどう主張して、こういうことになっているのだろうと思う。ま、いずれにし
ても、主人公を指しているワケだが、「アメリカ人」の方がより全体のプロット
やテーマを象徴する、ある種説明的なものと云えるだろう。そして、本作のタイ
トルとしてより相応しいのはどっち?と問われるならば、私は「ジョイカ」を取
る。なぜなら、「ジョイカ」の方が、本作の価値を決定づけている「映画として
の画面」を表していると思うからだ。つまり、最初に書いた通り、これは(私に
とっては)タリア・ライダーの顔の映画なのだ。

#ボリショイ・バレエ団の芸術監督役はトマシュ・コット。一緒にいる金持ちは
 ボリス・シィツ。この2人は『COLD WAR あの歌、2つの心』のコンビ。