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『Suspense』
(フィリップス・スモーリー、ロイス・ウェバー,1913)

 これは良く出来たスリラー。云わば前年(1912年)のグリフィス『見えざ
る敵』を換骨奪胎した(シンプル化した部分と発展させた部分の両方がある)作
品と云っていいのではないだろうか。まず、本作は映画史上、最初にスプリット
スクリーン(画面分割)が使われた作品として名高いが、それが2分割ではなく、
3分割だった、しかもその画面デザインがすこぶる綺麗、ということに驚かされ
る。画面中央下部の三角形に男性(ヒロイン−ロイス・ウェバーの夫)。右上に
妻のウェバー。左上に侵入者(浮浪者)。これら3人の同一時間軸が一つの画面
に映し出されるワケだが、これはウェバーと夫が電話でやりとりをする場面であ
り、グリフィスがパラレル編集(クロスカッティング)で見せた電話の会話シー
ンを画面分割で、より同時進行の感覚を出したということだ。

 また、全体にウェバーは、グリフィスよりも寄り気味の画面を作っていると思
う。あるいは、より自由な視点を獲得しているようにも思う。その特筆すべき例
が、2階の部屋の窓から外を見たウェバーのミタメショットで、階下の玄関ステ
ップあたりを歩く浮浪者の、彼女を見上げるアップショットを挿入するセンスだ。
いやこの感覚は、上記の画面分割以上に凄いものだろう。あるいは、夫が家へ駆
けつける際に、カーチェイス場面まで盛り込んでいたり、その際に、2台の自動
車を縦構図で一画面に映しこむだとか、サイドミラーを使った画面造型まである。
尚、遠く『シャイニング』のクライマックスをも想起させる悪漢がドアを突き破
って部屋に押し入ろうとする場面の演出は、グリフィスよりもシンプル化されて
いるだろう。こゝの怖さは、『見えざる敵』やヴィクトル・シェストレム『霊魂
の不滅』(1920)の方が上だとは思う。