モノクロ、スタンダード。走るバス内から撮ったショットで始まる。終盤にも
このファーストカットと同じカメラワークのショットがある。いずれも窓外の景
色から座席と通路にパンして、通路を前進移動し、座っている選手−レイラと、
監督−マルヤムを映す長回しのショット。ファーストカットはジョージアの首都
トビリシという設定で、ラスト近くのカットはパリ周辺だろうか(パリから移動
したということだと思う)。
柔道の試合場面、ファイトシーンは、ほとんどハンディカメラで激しく動く選
手たちに寄ったショット。引いた絵が少ないのが残念だが、とても迫力のある造
型だ。ときおり真俯瞰が挿入されたり、試合前に睨み合う選手をフォーカスアウ
トしたショットといった凝った演出も奏功する。よく考えられている。真上(天
井)を映した仰角もある。これは投げられた選手のミタメだ。
全編の8割ぐらいがトビリシの試合会場での緊迫した場面だが、途中、フラッ
シュ・バックが確か4回入る。1つ目は監督マルヤムのショットの次に挿入され
る(彼女の回想ということになると思う)今大会の壮行会の場面。あとの3つは
選手レイラの脳裏に一瞬よぎったという体(てい)で、レイラと夫との閨中での
会話シーン、レイラが幼い息子に「行って来るからね」と云う場面(大会に出発
する日の朝か?)、そして、レイラと夫が、2人でダンスクラブに入り踊るシー
ン。実を云うと、これら4つのフラッシュバックは、全部、効果の薄い、観客の
テンションを弛緩させる無駄なフラッシュバックだと私には感じられた。
また、試合会場以外の場面としては、レイラの家族や友人たちがテレビ観戦す
るイラン国内のシーンがあり、これがクロスカッティングで挿入される。このか
らみで、道路を急行する秘密警察の車と思しき自動車のショットなんかもあって、
サスペンスに寄与するが、警察が踏み込む場面あたりの見せ方は、ちょっと雑な
演出だと私には思えた。レイラの家で、テレビ観戦して騒いでいた人々の様子を、
もうワンカットでいいから見せて欲しかった。完全な憶測だが、撮っていたけど
割愛したというようなことではないか?とも思えるし、テーマ性を際立たせるに
は、こんな些末な部分よりも、レイラのフラッシュバックの方を優先させたかっ
たのだろうとも思うが、私の感覚では、4つのフラッシュバックを全部カットし
て、イラン国内の警察の場面をもう少しでいいので充実させた方が、より面白く
なったと思う。
さて、監督マルヤムを演じるザール・アミールは『聖地には蜘蛛が巣を張る』
のヒロインであり、最近、フランス映画にも進出して活躍しており、この人を見
たいという動機が一番だったのだが、矢張り本作は助演と云うべきで、ビリング
トップのレイラ役アリエンヌ・マンディが圧倒的な主演者だ。女優賞ということ
なら、アリエンヌ・マンディと同時受賞でよいと思う。勿論、ザール・アミール
もとても良い役どころで、この役をこれぐらいの尺にとどめて、より彼女のドラ
マを強調する構成は、製作者として賢明だろう(ちょっと憎たらしい)。アリエ
ンヌ・マンディも今後活躍することを期待する。
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