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『The Poor Little Rich Girl』
(モーリス・ターナー,1917)

 25歳のメアリー・ピックフォードが11歳のタイトルロールを演じる映画。
それは子供時代から大人になるまでを演じるとかではない、開巻からラストまで
だ。いや、途中で11歳の誕生日のシーンがあるので、開巻は10歳か。もっと
も、本作から5年後、彼女が32歳頃の『アンニー可愛や』でも、始めから終わ
りまで12歳を演じていた。また、調べるとピックフォードは前年に自分の製作
会社を立ち上げており、本作の2年後にはユナイテッド・アーティスツを共同設
立する(グリフィス、フェアバンクス、チャップリンらと共に)。そういう時期
の作品だ。そして演出はモーリス・ターナーで、本作でも抜群のビジュアルセン
スを見せている。

 ファーストカットは邸宅内の1階ロビー。手前に大きな男性(執事か)が2人
映っており、その間の奥の階段からピックフォード−グウェンドリン(グウェン)
が降りてきて、手前に来る。手前に来ても、大きな男性と比べて非常に小さい。
彼女の背の低さを異様に強調する演出だ(ピックフォードの身長は154センチ
とのことだ)。こういった奥行きを意識させる演出も全編頻出する(特に前半に
多い)。例えば、使用人たちが右奥から画面に入って来て、螺旋状に動いて左手
前からハケるショット。屋敷の前の通りを、画面奥から前に向って子供たちが走
るショット。

 タイトルでも分る通り、お金持ちだが、可哀想な少女グウェンの物語。お金持
ちだからこそ(と云ってはなんだが)、彼女は父母に放ったらかしにされて孤独
だ。父はビジネスに没頭し、母は社交界のことばかり。前半は、母が「友達に」
とあてがったスージーという女の子が実に性格の悪い映画的な娘で、良い見せ場
を作る。後半は、これまた性格の悪い(トゥー・フェイスと呼ばれる)メイドの
ジェーンがいい加減な対応をし、薬を飲まされ過ぎたグウェンの見た夢のシーケ
ンスが面白い。スージーと喧嘩をするグウェンの場面では、ピックフォードの類
い稀な表情の造型を十分に見ることができるし、後半の夢の数々は、モーリス・
ターナーの技巧が炸裂する。

 薬を飲みすぎ朦朧とするグウェンが廊下や階段を下りるショットはダッチアン
グルで表現される。階段の下に転げ落ちたグウェンを二重露光で取り囲む少女た
ち。こゝからの悪夢の連続も多重露光が活用される。これは、夢のシーケンス以
前にも、ウォールストリートで熊に囲まれる父親のイメージや、父親の妄想で、
拳銃自殺をしようとする自分の姿が突然現れる、といった演出でも印象的に使わ
れている。

 また、序盤のグウェンと家庭教師たちとの切り返しや、手回しオルガンのオジ
さんと窓のグウェンとの切り返しは、軸線(イマジナリーライン)がずれている
と感じたが、スージーと睨み合うシーンや、父親と手を振り合う(父がドア前に
いて、グウェンが階段上にいる場面)の切り返しは、バッチリ決まったものだ。
もっと細かな趣向ということになるが、部屋に閉じこもったグウェンがドア外の
人物に喋る場面で、科白が鍵穴から文字として出ていくといった演出、寝室のシ
ーンにおける、同一ショット内で着色を黄色から青色に変えて、消灯を表現する
といった演出も面白いと思った。