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『バーバー吉野』
(荻上直子,2003)

 この長編デビュー作から構図に対する志向はよく感じられる。最も良いショッ
トは、意外にも、ケケおじさん−森下能幸のカット、彼が「カタリ・カタリ」を
独唱するロングショットだと思った。あるいは、少年たち5人が、家出してキャ
ンプする直前の、丘(というか山)の上を歩く俯瞰横移動ショットで、後景に丘
の下の景色が見えている画面か。

 もっとも、全体に、こすられ過ぎた、男の子あるあるモチーフの連打や、時代
錯誤かつ予定調和のプロット構成含めていろいろと中途半端な出来ではあるが、
とにかく5人の少年たちが全員よく演出されていることは一番の良い点だと思う。
5人の中ではどうしたって転校生の坂上−石田法嗣が目立つけれど、ケイタ−米
田良が、その母親−もたいまさこを越えて、本作の主人公としてプロットの中心
に位置し続けるのがいい。この子が後半になるに従って、良い顔になっていくよ
うに感じられるのだ。また、坂上くんが「風の又三郎」みたいな隔絶した存在に
ならずに、4人と融合していくのもいい。

 尚、登場する大人たちの「選択と集中」は仕方がないとは云え、少し寂しいも
のがある。先生は(校長らを除くと)一人だけ−三浦誠己しか登場しないし、バ
ーバーの客はほとんど桜井センリだけだ。さらに、ケイタ以外の子供たちの両親
が不在というか、まったく描かれない(例えば母親について、リベラルだの、怖
いだのと云った科白はある)、という措置が、その感を強くする。また、ケイタ
が体育の授業で目が釘付けになる女子−上杉−岡本奈月も、もうワンシーンぐら
い見せ場があれば良かったのに。

 あと、冒頭及びエンドロールのヘンデル、上にあげた「カタリ・カタリ」など
既存曲の使用は良い効果を上げでいる。クラシックではエピローグにプッチーニ
の「ラ・ボエーム」も使われているが、ラストシーンや子供たちの秘密基地のシ
ーンなどでも流れる劇伴の(アコーディオンやマリンバでメロディが奏でられる)
「チリビリビン」の旋律ののどかさがよく画面に合っている。

#小学生の男子あるある。クラスの女子の胸、学校の男子トイレの個室、姉の裸、
 秘密基地とエロ本、登り棒と股間、下の毛、変なオジサンから走って逃げる等。