極めて美しい音の映画。静謐な時間の映画でもある。傑作だと思う。ほゞ固定
ショット。歩く人物を追う移動ショットはあるが、ステディカムだろう滑らかな
動き。切り返しもほとんどない。ただし、少ない切り返しがインパクトあるシー
ンを作っている。
建設中のビル。木々の間から撮ったショット。風が強い。建設現場のショット
をいくつか繋ぎ、労働者の主人公の帰路を追う。休暇でルーマニアに帰郷すると
云う。家を空けるので、冷蔵庫を空にしたい。残り物でスープを作る。このスー
プを友人・知人たちに配り歩く主人公。後のシーンで、ビーツ?と聞かれて、そ
う、他にも色々と答える。
顕微鏡を見るアジア系の女性の登場。建設労働者を追った場面の中に、もう一
人の主人公と云っていい、植物学者の女性のシーンが唐突に挿入される。顕微鏡
のミタメ画面、植物の細胞を捉えたショットも美しい。彼女の講義のシーンもあ
る。というワケで、この2人の男女がクロスカッティングされる構成となるが、
植物学者の出番は少なく、建設労働者の方が多い。
労働者が知人の男たち3人と、草の上に座ってスープを食べるシーン。こゝで
一番年長の男性との明確な切り返しの繋ぎがある。そして、その次のシーンが中
華レストラン。雨の中、植物学者が入ってくる。彼女のオバさんの店か。店内に
は労働者の男がいる。彼はテイクアウトせずに店内で食べてもいいか聞くのだが、
植物学者の女性がオバさんに通訳する、というかたちで2人は出会う。こゝの2
人のやりとりも、明確な切り返しの演出で描かれる。
続くスープの配付先はアンカという女性。これは労働者のお姉さんだろうか。
ファミレスみたいな店で、マグカップ2つをレンジで温める。席で会話しながら
スープを飲む2人。このシーンで、日照り雨の森の木々を仰角で移動して見せる
ショットが挿まれるが、これは男性の夢なのだろう。
そして、森の中で、主人公の男女は再会する。苔を調査する植物学者。それを
手伝う労働者の男。こゝからが本作のハイライトだ。苔や小さな植物への接写。
森の中の鳥の声。木々や風が作りだす繊細な音。2人が歩くのを横移動で見せる
ショットと共に、2人の後ろ姿を追う移動ショットもある。その中で、2人の後
景に電車が走っているのに、音声は森の音だけ(電車の走行音はワザとオミット
されている)、という処理はキャッチーだ。植物学者が男性に苔を渡す際の2人
の手だけのショット。靴紐を結ぶために座った植物学者が立ち上がる際に、男性
に手を差し出し、引っ張られて立ち上がると、2人の脚だけが映るショット。
エピローグのような中華レストランのシーンも極めて落ち着きの良い極上の場
面だ。植物学者の女性がエンディングを締める、という構成もいい。本作も16
ミリフィルムで撮影された作品のようだが、この画面は実に豊かな表現力だと感
じた。
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