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『aftersun/アフターサン』
(シャーロット・ウェルズ,2022)

 溶明する前に、デジタルビデオカメラの操作音が聞こえる。オープニングは、
お父さん−ポール・メスカルを逆光気味で(アンダー気味で)撮ったブレ映像。
撮影しながらお父さんにインタビューするソフィ−フランキー・コリオ。11歳
の時に何に成りたかったか?この、11歳のソフィの場面がメインの時間軸だが、
一応、20年後ぐらい(30歳ぐらい)のソフィ−セリア・ロールソン=ホール
が回想している、という体(てい)になっている。大人のソフィの場面は、ほゞ
クラブのシーンだ。明滅する光。踊る男女。その中の一人の女性が大人のソフィ
なのだが、実は誰だか示されない(見当はつくが)。後半で、この女性がパート
ナーと寝ているベッドの場面があり、パートナーからソフィと呼ばれるので、確
信が持てる、という仕掛けだ。この場面では、赤ちゃんの声も聞こえる。もう一
つ書けば、この部屋には絨毯が敷かれている。

 冒頭、過去へ記憶が遡る表現を、デジタルビデオ映像の巻き戻し画面イメージ
で造型しているのは面白いと思った。11歳のソフィの、お父さんと2人で行っ
たトルコの保養地の思い出だ。最初の日の夜、ソフィがベッドに寝て消灯した後、
お父さんがテラスで煙草を喫う。これを延々と見せる。ソフィの寝息がずっと聞
こえている。私は、変なことするなぁと思ったが、こういう未整理な演出をワザ
とやっているのだと思う。また、呼吸音が意識的に使われるシーンも何度も出て
来る。

 例えば、手前にフォーカスを外した人や物を映し込んで画面奥にピントを合わ
せた画面も頻出する。画面奥に、太極拳をするお父さんとか、画面奥にテレビに
映したビデオカメラの映像とか。こういうのも、未整理な演出に感じられる。あ
るいは、パラグライダーのショット。プールに映ったパラグライダーの映像にデ
ィゾルブしたりもするのが、面白いけれど、これも雑然とした感覚を出す。これ
らが悪いと云っているのではなく、不思議な時間(情感)に感じられて、面白い
のだ。

 また、後半になって、不思議な場面が増える。例えばカラオケ大会の夜。ソフ
ィが勝手にエントリーしていたのだが、お父さんは唄わないで、ソフィ一人で唄
う。これがあんまり上手くない。こゝで、お父さんが先にホテルの部屋に帰って
しまうのも不思議だが(子供を放ったらかしにして危険じゃないか)、この後の
ソフィの行動、ちょっとした冒険を追う場面の中での、お父さんが、一人海に入
って行くショットは、大人のソフィが作り上げたフラッシュバックだろうか。

 翌日の、バスで行く景勝地の場面。2人で太極拳をする固定のロングショット
はいいショットだ。硫黄の匂いがする泥を塗りたくるシーンで、お父さんは、昨
夜はゴメンを繰り返す。ソフィが周りの人に声をかけて、誕生日の歌(「フォー・
ヒズ・ア・ジョリィ・グッド・フェロー」)を唄うシーンがあり、こゝで、崖上
のお父さんの戸惑う姿のショット、次に、部屋で慟哭するお父さんの後ろ姿(裸
の背中)を繋ぐカッティングには、とても驚きがある。そして、クィーン×ボウ
イの「アンダープレッシャー」でのダンス・シーンに繋げる。こゝのモンタージ
ュは圧巻だ。これは胸に迫る。この一連のシーケンスが無かったら、1ポイント
下げると云うべき決定的な部分だと思う。クラブの明滅ショットの中に、お父さ
んも、11歳のソフィも出て来る。この終盤の畳み掛けがあるから、本作が良い
映画だと、云いたくなる。最後に、お父さんが廊下を歩き、ドアを開けて入って
行ったのは、クラブなのだろう(暗闇に明滅する光が見える)。これは、私には
蛇足のような処理に感じられたのだが。