戻る

『AIR/エア』
(ベン・アフレック,2023)

 まずは、中年太りで、お腹の出たマット・デイモンに驚く。劇中何度も、テブ
と云われる。デイモンのデブいじりはラストシーンまで続く。ベン・アフレック
との共演作ということで『グッド・ウィル・ハンティング』のあの眩いばかりに
輝いていたデイモンが思い出されて仕方がなかった。しかし、本作でも、2人と
も相変わらず人物的にはカッコいい、良いキャラクターを演じている。

 実は私が本作を見たいと思った動機の一つとして、監督のアフレック以上に、
ロバート・リチャードソンが撮影に参加しているということが大きかったのだが、
彼らしい真上からの光は控えめで、奇をてらわない自然な照明が基調となってい
る。1980年代を舞台とするビジネス物ということに配慮したのだろう。ただ
し、コンバースとアディダスを含めた社屋の空撮や、パンチのある人物の仰角シ
ョット等を要所でリズムよく繰り出して、上手くテンションを持続させる画面作
りだと感じながら見た。

 そんな中で、2つのシーンを特記しておきたいのだが、1つは、キング牧師の
「アイ・ハブ・ア・ドリームス」スピーチについてのデイモンとマーロン・ウェ
イアンズとの会話シーンだ。この場面だけ、小さなズームインや、頻繁なピント
送りがある。特に私はピント送りに違和感を感じたが、このシーンを観客にキャ
ッチさせるべくした、特別な演出なのではないか。この場面の、ターゲットの反
応を見て、用意したスピーチ内容を変更したという逸話が、大事な伏線になる。
 もう1つは、ジョーダンとその家族にプレゼンする前の、アフレックも入った
関係者全員での打ち合わせ場面で、人物の周りをカメラが高速で回りながら移動
撮影するショットの繋ぎだ。これはそんなに珍しい演出でもないが、しかし、リ
チャードソンらしい、高揚感を醸成する流麗なカメラワークだと思う。

 あとプロット展開(あるいは編集か)で気に入ったのが、序盤で(確かアフレ
ックの登場シーンだと思うが)、駐車場でスケボーをするハゲた社員をアフレッ
クが見る、という部分がある。窓からの俯瞰でチラッとこのスケボー社員を見せ
ておくのが、とてもいい効果を出す。あと、マイケル・ジョーダンが顔を見せな
い、という措置には賛否あるだろうと思う。似てなくても出せばいいのに、と思
いながら見る人も多いと推測するが(私もそうだったが)、しかし、ずっと見せ
なかったことで、プレゼン本番シーンで本人の記録映像が爆発的にフラッシュバ
ックされる演出の効果を上げているだろう。

 脇役も皆いい。特にジョーダンの代理人−クリス・メッシーナの罵詈雑言シー
ンと、あと、ジョーダンの母−ヴィオラ・デイヴィスの全ての場面がいい。彼女
が陰の主役と云ってもいいぐらいの存在感を示す。常に落ち着き払っている造型
がカッコいい。