フォーカスの外れた通路のショット。このプロローグには度肝を抜かれる。被
写界深度の演出、窓ガラスの造型が面白い。ゆったりとしたドリー前進移動が用
いられるが、これは全編要所で出て来る。また、ヴィルヌーヴの映画のような重
低音を基調とする劇伴も効果を上げる。
さて、冒頭近く、「PLAN75」申請窓口の職員−磯村勇斗が、最初に来訪者とや
りとりをする場面。一人一人、横からのショットを繋ぎ、切り返さない。これを
見た際に既に予想したが、全編ほとんど切り返しを行わない映画だ。切り返しは
ゼロではないが、「PLAN75」施設で働くことになる女性マリア−ステファニー・
アリアンが、二人乗り用自転車をもらう場面と、磯村と叔父さん−たかお鷹との
応対シーン、及び、夜の道で手を振る部分ぐらいしかないように思った(もう少
しあったかも知れませんが)。その代わりと云っては何だが、本作には、ちょっ
と忘れられないような、強烈なカメラ目線ショットが2回ある。一つ目は、ホテ
ルの清掃員−倍賞千恵子の登場シーン。もう一つが、コールセンター職員−河合
優実の最後のショットだ。いずれも無言かつ虚ろな表情でカメラを(我々を)見
る。観客は、何かを突きつけられたような気がするが、こういうメタな演出は、
好き嫌いがあるだろう(実は私は好きではない)。ただし、コールセンターでオ
ペレーションする河合を、ちょっと引いて撮ったショットは絶品でした。
あと、倍賞がテーブルに顔を横に向けて伏すショットと、その見た目で玄関口
のすだれが繋がれる部分があるが、これは、職場の同僚だった大方斐紗子の顛末
を見せるショットに呼応し、さらに終盤の施設でも、倍賞がベッドで顔を横にし、
隙間から隣のベッドを見る、という演出に呼応しているだろう。こういった考え
抜かれた相似の所作や運動の反復は、この監督の才能が意識させられるところだ。
ワタクシ的には、カラオケで、倍賞が「リンゴの木の下で」を唱う場面が出て
来たのは嬉しかった。これは間違いなくワザと平板に(素人っぽく)唄っている
のだと思う(上手すぎると違和感ありますから)。この歌が、もう一度繰り返さ
れる、というのはウソっぽいが、これも映画らしい良い反復だと思う。
#倍賞千恵子が歌手として真面目に「リンゴの木の下で」を唄った音源を、エン
ドロールで流したら面白かったろうのに、と妄想した。『博士の異常な愛情』
みたいな面白さが出たと思うのだ(「明日また会いましょう」という歌詞の部
分が、「We’ll Meet Again」を想起させる)。でも、ちょっと趣味の違う映
画になってしまいますね。
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