これは傑作でしょう。マイルス・デイヴィスを主人公にした音楽伝記モノかと
思わせておいて、犯罪映画というかギャング映画、つまり、純粋な活劇に仕立て
上げている。しかも、彼を狂言回し的な役割にしてギャングの世界を映すのでは
なく、全き当事者、大げさに云えば、ギャングの一人として扱っているのだから、
いい度量なのだ。
いかにも犯罪映画らしい道具立て。カーチェイス、銃撃戦、麻薬、ボスとボデ
ィガード、地下室、ボクシング会場。そして、運命の女としてのフランシス。彼
女も実在の人物なので、いわゆる犯罪映画としての悪女という扱いではないけれ
ど、出会いの場面から別れの顛末まで、役割と描き方としては運命の女と云って
良いだろう。あと、録音テープというマクガフィン。
画面スタイルについて。冒頭のインタビュー場面が、小刻みなパンとズームを
多用したセワしないもので、これを見た時点で、大嫌いなパターンかと思ったの
だが、このイヤな演出はこゝだけでした。とにかくこの映画、劇中の現在時制と
フラッシュバック、過去場面との転換は、ほとんどマッチカットが行われていて、
この徹底のレベルはちょっと他に例を見ないのでは、と思った。例えば過去場面
で倒れるドン・チードルのカットに続いて現在場面で倒れるユアン・マクレガー
を繋いだり、「サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム」のレコードジャケッ
トにあるフランシスの写真から、彼女とのベッドシーンへ繋ぐ、といった時空を
ジャンプさせるようなカッティングだ。他にも、コロムビアレコード社屋のエレ
ベーターの中で壁を押すと演奏会場に繋がったり、ボクシングの試合場面で、リ
ングの上にはボクサーではなく、演奏しているチードルがいる、といったイメー
ジ挿入も面白い。いやこのような目を引く仕掛けだけでなく、ベッドシーンでの
手の演出だったり、チェイスシーンの最後に、路地の俯瞰カットを挿入したり、
といった細部の演出でも、いちいち「いいなぁ」と思いながら見たのだ。
役者で云えば、自作自演のドン・チードルの、成り切りぶり、というよりも、
新たなマイルス・デイヴィス像の創造が素晴らしい。そこに、胡散臭いライター
のユアン・マクレガーが、ずっと付き添っている、という協働関係を加えたこと
で、プロットがずっと面白くなっている。あと、脇役では、マイケル・スタール
バーグのギャングっぽい大物の造型も見事で、この人の力量をあらためて認識し
た。そしてエンディングはハービー・ハンコックとウェイン・ショーターも登場
する、というサービス精神。
というワケで、これだけ見応えのある映画をまとめ上げたチードルは、今後も
監督業に進出して欲しいと思う。今現在(2022年時点で)、次回作の予定がない
のは、とても残念だ。
#コロンビアのエレベーターの壁面には、次のレコードジャケットが飾ってある。
「Sketches of Spain」「Someday My Prince Will Come」
「The Times They Are A-Changin」これはディラン。
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