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『MINAMATA―ミナマタ―』
(アンドリュー・レヴィタス,2020)

 冒頭は、有名な入浴する母子の写真の場面。すぐに舞台はNYへ移るので、こ
の入浴場面へは、中盤か終盤にまた戻って来るのだろうと予想する。はたして、
この場面がクライマックスのような扱いだ。

 NYのシーケンスでは、ライフ誌編集長のビル・ナイがとてもいい。これ畢竟
のはまり役じゃないでしょうか。ジョニー・デップと美波が二人で行ったジャズ
バーのシーンでは、生演奏の体(てい)で、アート・ブレイキーの音源が使われ
ている。こゝは、後の「人生はジャズ」という科白に繋がる場面だが、ちょっと
手抜きな感じもする。尚、美波は全編通じてとてもよく演出されている。彼女の
セリフの丁寧語とため口のバランスがいい。こなれている。

 水俣への導入カットはドローンか?完全なCGか?空撮で海と山。走る鉄道。
なんかピカピカした画面で、当時の感覚が出ない。さらに、全編通じて、水俣湾
らしいロングショットは皆無。これは寂しい画づくりだと感じた。ただし、土本
典昭の『水俣 患者さんとその世界』の美しいロングショットが忘れられない、
ワタクシ的な問題ではある。

 水俣の場面での登場人物では、浅野忠信は、ほんのワンシーンのみの出演。そ
の妻−岩瀬晶子は、冒頭の入浴シーンの母親なので、浅野も、もう少し出番があ
ってしかるべきではないか。尺の都合でカットされたのではないかといぶかる。
加瀬亮は、自身も発病している活動家。いつもカメラを回している。精悍な顔つ
き、セリフ回しで、好演だ。真田広之は、唐突に活動家として登場し、活動家と
してのキャラ以外の人間性の部分は描かれない。よく目立ってはいるが、いびつ
さを感じる。そしてチッソの社長は國村隼。デップと二人で、工場の高いところ
に登るシーンでは、超ロングショットが与えられている。これは良いカットだ。
ハリー・ライムめいたセリフもあるが、複雑な造型で、ハリウッドらしい完全な
悪役、単なる冷血漢、という描かれ方(キャラ造型)ではない、と私には写った
(曖昧だが)。あともう一人、足にギブスをした、デップがカメラを与える少年
は『うみべの女の子』の青木柚だ。手の指は特殊メイク。彼が良い役(かつ重要
な役)で嬉しい(各サイトの出演者リストに加えて欲しい)。

 尚、チッソの株主総会がまるで水俣工場で行われたかのような見せ方になって
いる(実際は、ユージン・スミス来日前に、大阪で行われたものでしょう)。こ
のシーンの中で、真田が、机の上に胡坐で座り、加瀬亮が國村の横にしゃがみこ
んでる場面があるが、この絵面怖い。脅迫めいている(ヤクザみたい)。また、
ユージン・スミスが暴行されるのは、事実は千葉県の工場でのことだが、これも
水俣での出来事のように描かれ、効率的な構成に変更されている(映画なのだか
ら、この程度の時間・場所の改変自体はOKと思います)。あと、ラストカット
は人物が不自然に静止したカットで、この演出は、ちょっと違和感が残る。