喜びに溢れた殺戮。それを、まったく映画として倫理的に描いている。別の見
方で云えば、リバタリアンの夢だろう。てなことはさておき、全体に細かな演出
が良く出来ている。そういう意味で、傑作だと思う。
気に入った点をつらつらと書きます。まずは、主人公のボブ・オデンカークが
滅茶苦茶強く、やられることはありえない、と了解しながら見るパターンなのだ
が、それでも、序盤のバスの中での、チンピラとの乱闘シーンで、かなり、痛め
つけられるのだ。その前の壁を素手で殴る部分もそうだが、ちゃんと、オデンカ
ークの痛覚が観客に感じられるように描かれている。それを踏まえた上での、終
盤のコンバット・シューティングだということ。また、オデンカークの父親が、
クリストファー・ロイドで、彼の描写も一貫して揺るぎない。ほとんど戯画化の
レベルだが、本作の魅力に貢献しているのだ。西部劇好き、というのもいいじゃ
ないか。あるいは、オデンカークが妻、コニー・ニールセンに、今も恋しい、と
云った後、すぐにラブシーンになるのかと思いながら見ていたが、そうならない
奥床しい演出。また、ロシアンマフィアの幹部、ユリアンのキレっぷりもよく見
せるが、彼の登場シーンで、「ユリアン」と字幕を出し、舗道からクラブの店内
に入って、客席をずっと通り、舞台で唄うまでワンカットで見せるこの演出には、
ちょっとニヤケてしまった。この映画、あちらこちらで、くすぐる演出を入れて
来る。それが私には、ハマったのだ。例えば、オデンカークの日常のルーティー
ンを、細かいカッティングで繰り返す演出(その際の効果音)。彼が自分の過去
を話し始めるが、途中で誰も聞いていないことに気づくシーンの反復。ストロー
をチンピラの喉に挿すシーン。娘の猫のブレスレットの行方。オーナー用駐車ス
ペースに車を停めるのを律儀に見せる部分。そして、ジャズ・スタンダードの、
ベタな使い方(特に「What A Wonderful World」)。
終盤の、クラブでのユリアンとの対峙シーンも見事だ。こゝがあるのと無いの
では、大きく違うと私は思う。弟が殺されたユリアンに対して、マイホーム(妻
子)と父親(ロイド)が襲われたこととのバランスについてきちんと言及する、
というのが潔い。それを踏まえたうえで、喜びに溢れた殺戮に至る、という点が
まったく映画として倫理的だ、と感じる所以なのだ。
#オデンカークの家の、多分居間から見える壁に『黒い罠』のポスターがある。
変な家、と思った。
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