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『ONCE ダブリンの街角で』
(ジョン・カーニー,2006)

 殆どのシーンを2台のハンディカメラで固定せずに撮り、アクション繋ぎで巧
みに繋いでいる。ズーミングも多い。特に、前半の路上ライブや街頭ロケの場面
は、遠くに置いたカメラから、ロングショットでゲリラ的に撮影しているように
見える。ギターケースを持って走って行く挙動不審な男を主人公・グレン・ハン
サードが追いかける部分なんかが顕著だ。音楽がテーマであることもあり、また
ぞろ、佐々木昭一郎みたい、とずっと思いながら見る。

 ハンサードが部屋で「Lies」という歌を唄う場面で、別れた彼女の映像を見て
いる、という体(てい)の繋ぎがある。粗い手持ちのフィルムイメージ。昔撮っ
たホームビデオなのか、それとも彼の回想なのか、混乱させられてしまう。ベニ
スの風景やトランポリンをして遊ぶ場面が写されているフィルムだ。撮影スタイ
ルが本作のそれ(こゝまで見てきた本作自体のカメラワーク)と同じなので、余
計に不思議な感覚を覚えてしまうのだ。これって、映画中映画は、その作品自体
(映画中映画以外の各場面)とスタイルを異にする方が観客には分かりやすい、
ということの証明だろう。(観客に分かりやすく作るかどうかは、作り手の選択
の問題ですが。)

 そして、なんと云っても特筆すべきは、ラスト(エピローグ)の2つのクレー
ンショットです!ヒロイン、マルケタ・イルグロヴァのアパート前の俯瞰。上階
の部屋の窓からカメラが引いていくショットは設計も素晴らしいと思うが、カッ
ト中に、アパートの窓に太陽光が当たってキラキラ光っているという、奇跡のよ
うな美しいカットなのだ。本作も映画の神様の微笑みを感じさせる作品だ。

 あと、舗道で掃除機を引きずりながらウロウロするイルグロヴァの絵面が好き。